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本論説では、代理人すなわち特許事務所の立場でもなく、審査官等すなわち特許庁の立場でもなく、あくまでも出願人すなわち企業の立場に立った「良い明細書」を論じることとしている。事務所の立場に立てば、如何にすれば最小労力でクライアントたる出願人(企業)を満足させることができるかに主眼が置かれ、特許庁の立場に立てば、如何にすれば審査が容易となるかに主眼が置かれることになるであろう。
高月 猛著「明細書の書き方の変遷」,パテント1997Vol.50 No.1 p.69には、「出願人の良しとする明細書がベストということになる。」とある。 |
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良いとか悪いとかはどういう判断基準でもって判断するのかが問題となる。「良い明細書」は「良い特許」に繋がり、なぜ「良い特許」を取ると良いのかを特許の本質に立ち返って考慮する必要があろう。
厳密にいえば、事業単位で考えるべきであり、「良い特許網」とは、事業のために役立つ武器群! 従って「良い特許網」を構築するためには、中に悪い特許があってもよいが少なくとも「良い特許」が必要である。本論説では、「良い特許網」を構築するための「良い特許」を取るためには、「良い明細書」は如何に記載したらよいかを論ずることとする。 |
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特許には、法律用語としての「行政処分」の意味の他、「特許権」、「特許出願」、「開発側に対する知財側」等のように色々な意味で使用できる便利な言葉である。本論説では、このような便利な言葉を用いてできるだけ平易に論ずることとする。なお、ここでは「特許権」の意味である。 |
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一定の要件をクリアすれば特許となるのであり、楽々クリアしたからといって、それだけで企業にとって「良い特許」ということもできない。例えば、弁理士試験で最高点で合格したとしてもその人は最高の弁理士であるということはできない。単なる資格試験をパスしただけであり、クライアントのニーズに応えられなければ、良い弁理士とはいえないからである。これと同じでノーベル賞が受賞できる程技術レベルは高くて進歩性は楽々クリアしたとしても、肝心の経済性が低く事業に役に立たなければ、「良い特許」ということはできない。 |
| 5) |
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吉藤幸朔著「特許法概説(第8版)」有斐閣発行, p.352(ホ) |
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特許の効果は、「矛と盾の両方を持った戦士」の機能であるが、いわゆる「事業の自由度の確保」の効果とほぼ同義であろう。(知的財産管理委員会著「知的財産の活用について」,知財管理1997
Vol.50 No.11, p.1655〜1656を参照。)なお、久保山隆著「企業の立場からの明細書」,パテント1997
Vol.50 No.1, p.11のB実施の自由度確保の為の特許出願に記載されている「実施の自由度」とは異なると考えられるので注意を要する。むしろ、戸田祐二著「メガコンペティション時代を迎えた電気メーカーの明細書」,パテント1997
Vol.50 No.1, p.24〜25に記載の「自社製品の自由度の確保」に近いであろう。 |
| 7) |
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将来的に重要性を増す「矛の効力」の経済的価値をどのように評価するかが課題となってこよう。 |
| 8) |
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竹田和彦著,知財管理Vol.47 NO11 1997,p.1614を参照。日本では、未だ「盾の効力」を期待しているが、本格的プロパテント時代においては、「矛の効力」に特許取得の主眼が置かれるようになるだろう。なお、矛としての効力の評価法が、まだはっきり確立していないが、これからの特許の評価には、この矛としての効力の評価法の確立が待たれよう。 |
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特許権の矛の効力を消極的効力ともいう。盾の効力を積極的効力ともいうので、ここで用いる消極的という意味は、受け身的という意味であるので間違いないように注意する必要があろう。 |
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矛が良ければ、盾も良いとはいえず、その逆に盾がよければ矛も良いということも必ずしも言えない。例えば、事業化予定の発明を特許したが、それはピンポイントの特許であり設計変更によって侵害回避が容易な特許であったような場合は、「良い特許」とは言えないであろう。ただし、矛と盾の両方が良いということは有り得る。これは矛盾ではない。なぜならば、特許の性質上、自分の矛で自分の盾を突き刺すということは有り得ないからでである。 |
| 11) |
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事業は、利潤を得ることを目的にしており、判例にもなっているが、営業と特許と資本によるいわゆる3分法に基づいて説明されている。セールストークの営業活動とセールスポイントの特許とが相俟ってより事業展開を優位に進めることができよう。 |
| 12) |
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特に残念に思うのは、カタログ中のセールスポイントが特許明細書に記載されていなかったり、特許技術の特徴部分がセールスポイントになっていなかったりするケースがあるということである。前者は、出願をしないで発売をするということで言わば反逆行為であり、後者は、セールスポイントとしてお客様に訴えることもなく、「矛と盾を持った強い戦士」の機能を発揮しないということで、理由はさて置き利用されず埃に塗れた特許は悲しい。
なお、他社参入阻止のための特許では、他社が用いるであろう想定セールスポイントが特許技術の特徴部分となっていれば、それはそれで「良い特許」であろう。 |
| 13) |
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吉藤幸朔著「特許法概説(第8版)」有斐閣発行, p.213 |
| 14) |
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特許庁編 〈財〉発明協会発行 特許実用新案 審査基準 第U部 特許要件 第1章
明細書の記載要件 3.特許請求の範囲 5.留意事項を参照。 |
| 15) |
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山口洋一郎著「日本出願を米国出願に変更する際に知っておくと便利なこと」,パテント1997Vol.50
No.1 p.63を参照。 |
| 16) |
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「恣意を排除して極自然に」とは、相手を侵害に引掛けようとして無理な表現を用いることなく、あくまでも公平な第三者の立場に立って欲を捨ててクレームを自然に表現することを意味する。後になって侵害訴訟で事実認定で争わざるを得なくなった場合、事実認定で負ければ殆ど勝つ見込みがないからである。なお、高価な測定装置を使ったパラメータ特許の表現でもかまわず、「恣意を排除して極自然に」の表現とは、直接関係ない。 |
| 17) |
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ディスカバリーとは米国特有の手続であり、訴訟におけるディスカバリーは、当事者が相手方または第三者に対して事実または証拠の開示を求めることである。(米国特許研究会編「米国特許実務用語辞典」(第3版)(社)日本国際工業所有権保護協会発行,
p.196抜粋) |
| 18) |
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黒田博道著「プロパテントの時代を迎えて」,パテント1997 Vol.50 No.12 p.13を参照。 |
| 19) |
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単にメーカースタンスの特許対象よりもユーザースタンスの特許対象方が高金額化するからでもある。 |
| 20) |
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X社の特許発明にライバル会社Y社が改良発明をし、X社の特許発明の構成要件A+Bに、新たな構成要件Cを付加して構成要件A+B+Cの発明をし特許発明とした場合、X社は構成要件Cを使用しないで構成要件C’とすることができればX社のみが実施可能である。ただし、X社も構成要件Cが非常に経済的技術的に優れた構成要件であって、どうしても構成要件Cを避けて使用することができない場合、ともに実施することができない事態が生じる。このような場合、X社は先発メーカーの有利な立場が崩されていることになる。
広くて強い特許であるがスキのある特許とは、先発の特許明細書にはかかるベスト・モードが記載されていなかった場合、後発のライバル会社にこのベスト・モードの改良特許を取られてしまった場合、先発後発双方とも実施できない事態が生じる。特許の「矛と盾を持った強い戦士」の効果が半減することとなる。 |
| 21) |
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いかにその周辺までをも保護した“いい権利”にするかが特許の人間の仕事。最初のアイディアの権利を相手はどうかいくぐるか、だとすればこういう変形があり得 るのではないか」と考え、輪を広げて権利化する。そうすれば最初に生まれた権利よりずっと広く使えるものとなります。ここまでしないと本当にいい権利とは言えない。(キャノン丸島専務) |
| 22) |
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特許庁編 〈財〉発明協会発行 特許実用新案 審査基準 第U部 特許要件 第1章
明細書の記載要件 3.特許請求の範囲 5.留意事項を参照。 |
| 23) |
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吉藤幸朔著「特許法概説(第8版)」有斐閣発行, p.190〜192 |
| 24) |
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特許庁総務室 総務課企画調査室「中小企業における工業所有権制度利用実態調査」結果の概要について,知財管理Vol.50 NO1 1998,p.138に、「新製品開発時に工業所有権担当者が開発に携わる時期は、中小・中堅企業では企画・アイディア段階が64.1%で、残りがそれ以後であるのに対し、大企業では81.3%となっている。業況との関係で見ると、成長している企業ほど工業所有権担当者が早い段階で製品開発に参加している傾向がある。」とある。 |
| 25) |
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佐藤富徳著「PCT出願の活用について」,知財管理Vol.50 NO1 1998,p.107〜108を参照。 |
| 26) |
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紙尾康作著「新製品開発の話」デックリサーチセンター(株)p.34には、「特許を出願しないで新製品を売り出すことは会社に対する背信行為であると考えなければならない。」と記載されている。なお、ある会社の例であるが、商品は既に発売されているにも拘らず、これに関する特許は出されていなかったということが過去にはあった。 |
| 27) |
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特許庁編 (財)発明協会発行 特許実用新案 審査基準 第U部 特許要件 第2章 新規性・進歩性 2.進歩性2.8数値限定を伴った発明の進歩性の考え方を参照。 |
| 28) |
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梶崎弘一著「化学発明における実施例の意義」,パテント1997 Vol.50 No.9を参照。 |
| 29) |
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佐藤富徳著「PCT出願の活用について」,知財管理Vol.50 NO2 1998,p.173〜174を参照。
「国際調査報告、国際予備審査等からオーソライズされた特許文献リスト、見解が得られ、権利者に有利な場合はオーソライズされた御墨付き(以下単にお墨付きともいう。)をもらうことになる。特に競争が激しい分野において、発明が国際戦略上も重要であるのは分かっているが権利化できるかはっきりしない出願については、先ずPCT出願をして早い段階で国際調査結果である特許文献のリストを見て特許性があるかどうかと判断することができる。さらに、国際予備審査請求をして肯定的な(特許性があるという)国際予備審査結果を得た場合は、日本国においては当然お墨付きをもらった効果がある。欧州特許庁においてもこの肯定的な国際予備審査結果は尊重されるので欧州特許庁においてもお墨付きをもらった効果はあろう。(欧州特許庁審査ガイドライン)」を参照。従って、PCT出願は通常の出願の約2倍強であるが、特許調査費用、国際予備審査の費用も入っているとすれば、さほど高いという気がしないではなかろうか。 |
| 30) |
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竹田和彦著「特許がわかる12章[第4版]」1996年1月25日ダイヤモンド社発行,p.71〜72を参照。 |
| 31) |
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クレームが請求書に相当し、詳細な説明等は、請求額を裏付ける明細書に相当しよう。 |
| 32) |
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佐藤富徳著「技術課題の根拠及び内容が明らかにされているとして進歩性が認められた事例」,知財管理Vol.47
NO6 1997,p.851〜852の6.2明細書の記載についてを参照。
関西特許研究会明細書研究班著「理想の明細書を求めて」,パテント1997Vol.50 No.1 p.47〜 60を参照。 |
| 33) |
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補正が認められるための要件と数値の臨界的意義が認められるための要件とは全く別である。 |
| 34) |
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丸島儀一著,知財管理Vol.47 NO11 1997,p.1618を参照。特許が重要な経営資源(パテント・ポートフォリオ)となり、企業経営に積極的に役に立つということをもっともっとPRする必要があるように思う。 |
| 35) |
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特にユーザーの場合、「良い特許」を取ることは、非常に重要であるということをもっともっとPRしていくことが重要となる。PR内容は、ユーザーが特許を取る意義を訴えることとなろう。
ユーザーのみが特許を保有することのメリットは保有しない場合に比べて実施料相当分だけ安く購入できるというメリットがあろう。逆にメーカーに特許がありユーザーに特許がない場合には実施料相当分だけ高い買い物をすることになろう。ただし、ユーザーが最も恐れるべきは、全く関係のない他社、X社に特許を取られて、ユーザーの事業戦略に支障をきたすということであろう。例え、X社に特許を取得されたとしても、ユーザーがそれに見合う特許を持っていれば、クロスライセンスをすることによりお互いにチャラにして「事業の自由度の確保」をすることができるといことである。
「事業の自由度の確保」については、知的財産管理委員会著「知的財産の活用について」,知財管理1997
Vol.50 No.11, p.1655〜1656を参照。
以上 |